NHKスペシャル シリーズ認知症革命
第1回「ついにわかった!認知症予防への道」
2015年11月14日
ゲスト
鳥取大学 教授 浦上 克哉さん (日本認知症予防学会 理事長)
国立長寿医療研究センター 部長 島田 裕之さん (認知症予防の運動法などを研究)
▼概要
将来認知症になるかどうかは、歩き方にあることがわかってきた。
歩く速さを計ることによって認知症かどうかがわかる。
脳内にネットワークがあり、その衰えが認知症になる。
ネットワークの衰えは歩き方にあるので、認知症かどうかがわかる。
また、衰えをいち早く捉えて、ある対策をとれば、認知症予防がわかってきた。
▼認知症の人の将来推計数
2010年 525万人
2030年 830万人
2050年 1016万人
▼最近物忘れありませんか?
物忘れは年のせいだけではない
その物忘れ、瀬戸際かも!?
▼ケース
雑誌編集 山本さん(63歳)
61歳を過ぎた所から、自分の物忘れが気になり始めた
単なる年のせいだと思っていたが、大事な仕事でダブルブッキングしてしまった。
「まさか自分がと思っていたが、色々な現実に直面して、やっぱりそうかなと思った。」
診断の結果は、MCI(軽度認知障害)、正常と認知症の間
軽度認知障害は、対処のしようによっては治る
▼認知症予防のラストチャンス
世界でも、MCIの段階では治る研究が進んでいる
実験の結果、MCI⇒認知症5割、現状維持4割、正常1割となった。
なぜ現状維持以上になったのか?を調べた。
▼認知症の前段階 「MCI」の見つけ方
そもそも自分がMCIかどうか、物忘れと何が違う?
▼MCIの定義は?
・物忘れが以前よりも増えている
・加齢の物忘れとは違う
・ 簡単な漢字も書けなくなった、人の名前を覚えていないなどが増えた
MCI=年相応の記憶障害
認知症=生活に支障が出るほどの記憶障害
MCIの方は、全国に推定400万人いる
MCIの人の脳で何が起こっているのか、最新の研究でわかってきた
脳は、認知症ほど萎縮していないのでわからないので脳内ネットワークに着目した
離れた部分が同時に働くことを脳内ネットワークと呼んでいる
MCIの方の脳では、この脳内ネットワークに異変が起きていることがわかってきた
アメリカ・ワシントン大学が注目したのは、脳内ネットワークの結びつきの強さ
脳内ネットワークの強さが正常時と比べて弱まっていた。認知症になるとさらに弱まり、脳が萎縮していく。
アメリカ・アルバードアインシュタイン医科大学でMCIかどうかわかる実験をした。それは歩き方。センサーなどで歩く速さを測るとMCIの人の方が遅くなっている。また歩幅が狭くなっており、ふらつきやすくなっている。
歩く際には、周囲の状況を瞬時に把握しないといけないので、沢山の脳内ネットワークを使っている。MCIの場合、この脳内ネットワークが弱く、結果スピードが遅かったり、バランスを崩したり、歩く速度をストップウォッチで計ったりするだけで、認知症予防になる。
▼17カ国・2万7000人の人を調査
歩く速さが遅い⇒認知症になる人の割合 1.5倍
+記憶力の低下自覚で2倍になる
▼歩く速さで見極める認知症のリスク
要注意の歩行速度⇒秒速80cm以下(時速2.9km以下)になると、リスクが高い
脳内ネットワーク 衰えのサインとして、
足腰が悪くないのに、横断歩道を渡りきれない人は要注意
▼認知症の前段階 MCIのサインとは?
そもそも年をとると歩くのは遅くなっているのではないか?
⇒足腰が悪い人以外で遅いのは、脳内ネットワークが弱くなっている。
ケースの山本さんの場合、自宅から駅まで通常歩いて12分の所が3分遅くなっていた。
MCIのサイン⇒歩行のリズムが悪くなる
歩行は通常がリズムが一定だが、MCIの場合リズムが崩れる。
「MCIの人に見られる変化の例」
① 外出するのが面倒
② 外出時の服装に気を使わなくなった
③ 同じことを何回も話すことが増えたと言われる
④ 小銭での計算が面倒 お札で払うようになった
⑤ 手の込んだ料理を作らなくなった
⑥ 味付けが変わったと言われる
⑦ 車をこすることが増えた
3項目以上該当する場合は、物忘れ外来へ行ったほうが良い(浦上教授)
山本さんの場合は、①②④が当てはまった。小銭入れがぱんぱんになった。
服装にも全く気にならなくなった。
MCIは物忘れだけではなく、色々な所にサインが現れる
▼認知症は予防できる!世界の最新対策
神経細胞に異常が起こって(微小出血など)神経細胞が死んでしまって、周りのネットワークが死んでしまう。
「微小出血が見つかった割合」
正常5%
MCI16%
認知症(アルツハイマー病)28%
アメリカ・イリノイ大学 脳内ネットワークの回復への効果的な手段を発見
「ネットワークのつながり」
スタート時 0.16 BMTG-BPHG
6ヶ月 0.30
12ヶ月 0.35
(多いほうが良い結果)
少し息がはずむ程度の早歩き 1回1時間 週3回
驚くべき変化があることがわかった
運動によってVEGF(血管内皮細胞増殖因子)が増えることがわかり、新しい血管を作るように司令がでる。またBDNF(神経栄養因子)も分泌され、新たに脳内細胞を生み出す。
結果、脳内ネットワークのつながりが強くなる。
早足しで週3時間歩くだけで、脳がわかくなる。
▼今すぐできる!認知症最新予防
認知症予防 フィンガー研究(フィンランド)
MCIの疑いがある1260人が参加
その結果、早歩きなどの運動にいくつかのことを加えると良いことがわかった
フィンガー研究① 早歩きなどの有酸素運動を1日30分程度行う
フィンガー研究② 軽い筋力トレーニングも加える
フィンガー研究③ 食生活の改善 野菜や魚などを積極的にとる
フィンガー研究④ 記憶力のトレーニング(神経衰弱の様な) 週3回 10分程度
フィンガー研究⑤ 血圧管理
2年間取り組んだ結果、認知機能を平均25%向上することができた
カロリンスカ研究所⇒認知症予防をするのに、遅い過ぎることとは無い。
これらを組み合わせることによって、相乗効果がある。
山本さんも、強めの筋トレ、早歩き、記憶力ゲーム、社交ダンスなどをやっている。
トレーニングに取り組んで、頭の中のモヤモヤがすっきり晴れたような感じになった。
何か考えながら運動すると、脳内ネットワークが活性化される
脳の機能 記憶力の向上に効果があると言われている。
運動の強さ 強度に意識を向けてほしい
「効果的な運動」
脈拍を120程度に上げる(少しドキドキする程度)
1日10分を1日3回以上
日常生活の中で、ちょっと意識をする
「ちょい足しウォーキング」
歩幅を5cm広げ、大股で歩く
▼実用化が近づく 認知症の予防薬
レベチラセタム(てんかんの治療薬)が、認知症予防になることがわかった。
実際に認知症の人に投与した所、記憶力が回復した。
2016年 最終の臨床試験開始
2019年 アメリカで実用化(見込み)
日本でも研究が進んでおり、シロスタゾール(脳梗塞の再発予防薬)の治験を始めた。
脳の血管からの出血を防ぐ⇒神経細胞・脳内ネットワークを守る効果が見込まれている
2015年夏 臨床試験開始
2021年 日本で実用化(見込み)
▼ついに登場!認知症予防システム
愛知県高浜市・国立長寿医療研究センター「脳とからだの健康チェック」
市内の60歳以上の1万人を対象に、チェックを始めた。
歩く速さやリズムをチェックして、リスクをいち早く見つける。
誰でも予防活動を続けたくなるように、仕組みを作った。
活動量計を全員に渡し、歩数・歩く速さなどを計測できるようにして上げた。
歩いてもらう為の工夫もした。市内全域78ヶ所に、思わず行きたくなる場所を作った。
ダンスや、囲碁、カラオケスポットなど。
全ての場所には、印刷端末があり、活動量計をかざすと1日の平均歩行数などのデータが印刷される。
▼ついにわかった!認知症予防への道
病院に来てもらってからでは遅い。地域の人に早く享受してもらうようにする。(島田部長)
つい数年前まで認知症は治らない病気だと思われていた。専門家でも予防はできないと思われていた。もっとMCIの早期発見できる専門医を増やしていく。専門医に匹敵する医師を増やし、MCIの早期発見に備えていく。(浦上教授)
認知症検診はまだできていないので、国が整備をしていくべき(島田部長)
がんの早期発見のように、MCIで発見できて良かったと思う社会が早くくればよいと思う。(山本さん)
(以上、観一19回・長谷川澄治さん執筆)