NHKから取材された「遠距離介護支援交流会」

                観一・19回 長谷川澄治



 担当ディレクター氏から電話取材
 2015年10月8日、NHKスペシャル「私たちのこれから」担当ディレクター氏から突然のメール・・・。 2014年3月23日付の私のブログの記事を読み、メールをされたとのことでした。
 「当番組は、毎回、社会問題をひとつ取り上げ、それについて、市民の皆さま、専門家が一緒になって議論していく討論番組です。現在、番組では12月上旬の放送に向けて「介護問題」をテーマに番組制作を進めております。2025の日本は団塊世代が75歳以上となり、介護を必要とする人は現在の560万人から700万人以上に急増すると言われています。2000年にスタートした介護保険制度は、超高齢化社会を支える切り札として導入されましたが、今、介護現場は限界にきていると言われています。今後、私たちは在宅介護をどう支援していけば良いのか、様々な視点から皆で話し合っていきたい。長谷川さまのブログで『遠距離介護支援交流会』を準備されているお話が掲載されていましたが、今、どのような状況なのかお話を聞かせていただくことは可能でしょうか」
 同窓会幹事長の牧さんに連絡したところ、「どうぞ、取材を受けて下さい」とのこと。10月9日、取材協力OKの連絡をして、具体的な取材項目が分かれば事前に整理しておきたい、とのメールをしたところ、10月14日、担当ディレクター氏から以下のような内容の質問を頂戴しました。
 1)お母様を4年半介護されていらしたとのこと、どのような状況だったのでしょうか。
 2)昨年、お母様が他界されたとのこと、現在、長谷川さまご自身は介護への不安はお持ちなのでしょうか。
 3)介護について、長谷川さまが感じていらっしゃる課題があれば、教えて下さい。
 4)10年後に迫る「大介護時代」に向けて、私たちはどのように備えていくべきでしょうか。
 5)「遠距離介護支援交流会」について、詳細を教えて下さい。
 10月20日、質問内容に対する回答をメールした後、担当ディレクター氏から電話取材があり、母の介護体験の内容や、遠距離介護支援交流会の活動、介護における課題と対策等について話をさせていただき、大いに参考になったと感謝していただいた次第です。
 そして、直接お会いして取材させていただきたいとのご要望があり、コーヒーを飲みながら「介護問題」についてじっくり語らせて頂きました。

 ノウハウを全国民が共有できる仕組みの構築を
 2015年12月12日(土)21時から放映された、「介護危機、あなたの老後を守るには」を視聴した後、改めて以下のような課題を感じた次第です。
 (1)恐らく国民の大多数の人は、認知症という病気についての正しい理解が不十分だと思います。 認知症に関する正確な情報・知識は、精神内科の医師やヘルパー、ケアマネジャー等の認知症介護関係者の皆さんも含めて正しく理解されていない、というのが4年半の介護の現場での実感でした。
 (2)自宅介護の家庭や独居老人に対する具体的な施策も誠に乏しい限りです。家庭での介護を期待する方向性が国から出されているにも拘わらず、それを支援するための施策は不十分と思われます。例えば、自宅介護を支援する人向けの「自宅介護ボランティア手当」とか、一人で頑張って老後生活を送っている人向けの「後期高齢者独居手当」とか、自宅介護家庭に対する減税措置としての「固定資産税の免除」等、インパクトのある施策を講じていけば、結果的に介護費用増大の歯止め、介護予算の減額に繋がるとことが期待できます。
 (3)極めて重要な、認知症予防のための具体的情報も国民レベルでの共有がなされておりません。介護問題の一番の解決策は、認知症患者を増加させないことです。2025年には要介護者800万人という数字が示されていますが、認知症の発症を遅らせるための施策を講ずることで、介護問題は大いに軽減されます。85歳で4人に一人、加齢ごとに加速度的に増加する認知症の予防対策について、国と地方自治体は緊密に情報を共有し、地域住民の生活サイクルの中で予防対策を習慣的に実践させる仕組みが肝要です。
 介護問題を防止するための具体策としては次のようなことが考えられます。
 (1)効果的な予防対策のナレッジ化
 認知症に対する理解や予防対策については、個人・家庭・自治体レベルで、効果的な対策を考案し実践しているケースがあります。時々TVや新聞等で紹介されている通りです。しかし残念なことは、それらの貴重なノウハウが国民レベルで共有する仕組みが構築されておりません。国、自治体、産学が連携して、認知症予防対策のナレッジシステムを構築することが肝要です。
 (2)自治会組織を利用した予防対策の実践
 国が方向性を出している「自宅介護」を推進していくためには、自治会組織の活用が効果的であり不可欠、と思われます。災害や祭礼行事にみられるようなボランティア活動を、自宅介護の場面においても実施していくべきであり、現にこのような動きは私的サービスとして始まっています。自宅介護を支援するための自治会活動を支援し活性化させるために、例えば「自宅介護ボランティア手当」等の施策を、国や自治体が考案すべきであると思われます。
 (3)介護施設の組織的マネジメント力の強化とヘルパー職の付加価値の向上
 特養(特別養護老人ホーム)や老健(介護老人保健施設)などで働いているヘルパーの皆さんが、仕事に誇りと生き甲斐を持って働けるような職場環境にしなければなりません。介護資格を取得している人が300万人にも拘わらず、実際に介護の仕事に就かれている人は30万人に過ぎません。何故介護資格者の就労率が低いのか、就労後の離職率は何故高いのか等を考察して、対策を図らなければなりません。
 対策の一つは、組織的マネジメント力の強化です。認知症患者を24時間体制で介護する、という職場環境は、精神的にも肉体的にも大変なストレスを伴います。組織としてのマネジメントは、介護する人の溜まったストレスを如何に効果的に発散し解消してあげるかがポイントであり、満足度の高い職場環境では、それが実践されている筈です。
 対策の二つ目は、介護職の付加価値を高めることです。産業界の平均給与が33万であるのに対し、介護者は22万に止まっています。
 金の流れは、付加価値に影響されますから、介護職の給与体系を向上させるためには、介護サービスの質的向上を図る必要があります。例えば、心理カウンセラーの資格を持つことで、介護サービスの質的向上を図り、満足度の高い介護サービスに対して、それに相応しい介護料金を支払っていただくことで、介護職の給与体系の改革を図っていく。そのような正のスパイラルを公的な介護施設においても実践してもらいたいと考えています。
 介護サービスの質を高め、要介護者にも喜んでもらえるような付加価値の向上策は、多々ある筈です。

  (了)