<遠距離介護支援交流会:参考資料>
認知症の診断と予防対策
                  2014年9月13日


1.認知症の診断
 (1)認知症の簡易検査と診断
  成人に達してから、知能の低下が生じる状態を認知症といいます。

  認知症の診断の第1の根拠となる症状は、生活に支障をきたすほどの知的能力の低下があるかどうかです。時間、場所、人の見当がつかないことを「見当識障害」といいます。

  これらの見当識障害や、記憶力、記銘力を評価するのにしばしば用いられるのが、長谷川式簡易知能評価スケールです。これは医師でなくても実行可能な簡単なテストです。 (下記に資料添付しています)

  しかしこの評価スケールは、あくまで簡易検査です。行動の異常に関するテストは含まれていません。したがって明らかに認知症と思われるケースでありながら、正常と判断されてしまうこともあります。

  そのため、実際の診断にあたっては、家族から、ご本人の異常な行動、幻覚、妄想の有無などを詳しく聞き、診断をより正確に、確実なものにします。

  妄想には、脳血管性認知症とアルツハイマー型認知症があります。両者を区別する特徴としては、脳血管性認知症の場合は、アルツハイマー型と比較して、認知症症状があっても人格は比較的保たれている、ということがあります。

  診断には、さらにCTスキャンやMRI、脳波、脳の血流検査(SPECT-PET)などが、補助診断として使われ、これらからも、アルツハイマー型か脳血管性型かの判断がある程度つきます。

  また、認知症は、慢性硬膜下血腫、正常圧水頭症、脳腫瘍などからの二次的症状として生じることもありますが、CTスキャンは、これらとの鑑別にも有用です。

 (2) 物忘れ外来を受診する
  現在、超高齢化している日本では、85歳以上の3~4人に1人が認知症であると言われています。日本人の平均寿命は、男性が78.56歳、女性が85.52歳です。(2006年10月1日現在)また、65歳以上が占める割合が20%を超えています。

  アルツハイマーの初期症状である、物忘れがひどくなったり、知っているはずの道に迷うようになった時、本人や家族がそのことに早く気づき、診察や検査などを受け、病気についてきちんと認識することが大切になってきます。適切な処置や、手術などで病状が治ることもありますし、また、病気の進行を遅らせることができます。

  アルツハイマーの前ぶれとも言われる軽度認知障害の段階で気がつけば、アルツハイマー型認知症への進行をかなり防ぐことができます。そのためには、物忘れなどの初期症状に気づいたら、すぐに病院に行きましょう。

  しかし、実際に診察してもらうには何科にかかったらよいのかわからないという人も多いのではないかと思います。物忘れが気になるから相談したいという時に、気軽に受診することできるのが「物忘れ外来」です。最近では、この物忘れ外来を設置している病院が増えました。

  物忘れ外来では、まずその症状が病気によるものなのか、年齢によるものなのかを診断します。老年期の心の問題には、認知症やアルツハイマーなど脳の老化に伴う病気と、それ以外のうつ病やノイローゼなど、脳の老化とは直接関係のない様々な症状があります。

  物忘れ外来では、物忘れが気になる本人だけでなく、その家族などの相談にも応じています。また、専門的な観点からも診察やCTなどの検査、相談を行っています。

  そして、最終的には一人ひとりの診断結果に応じた治療や処置をしていきます。症状に応じた薬物治療、また症状によっては施設への入居、介護保険のアドバイスなどもしてくれます。とにかく、一人で悩まずに物忘れ外来を受診して、専門家に相談してみることをお勧めします。


2.アルツハイマー型認知症とは

 (1)アルツハイマーの原因 
  アルツハイマーは、脳内の神経細胞の表面にアミロイドたんぱくと呼ばれる異常物質が集まり、老人班というシミを形成することから始まります。
  そこに、神経原線維変化という糸くず状の病変が揃うと、神経細胞がダメージを受け、その大量死によって病的な脳の委縮が起ります。
  委縮は、神経細胞が大量に消失したことを表しています。
  大脳は、前頭葉、側頭葉、後頭葉、頭頂葉に区分されており、アルツハイマーは、側頭葉や頭頂葉の委縮から始まる、といわれています。
  側頭葉(海馬と呼ばれている部分がある)は、記憶をつかさどり、頭頂葉は空間認識をつかさどる部位なので、それらの委縮が強くなると、物忘れが目立ったり、道に迷ったりするという症状が現れます。

 (2)アルツハイマーの症状
  記憶力の低下(ゆっくりと進行するため、初期では年齢のせいと思われがち)
  よく動き、落ち着かない
  足が達者でしっかりと歩くが、道に迷う
  昼に徘徊する
  質問に対し、でたらめな内容を即答する

 (3)アルツハイマーの特徴
  おしゃべりで、元気な認知症
  女性に多く、潜伏期間が10~20年と長い


3.レビー小体型認知症とは

 (1) レビーの原因
  レビーは、パーキンソン病ならびにアルツハイマーと兄弟関係にある、脳内の神経伝達物質が低下する病気です。
  脳内では、神経細胞が電気の配線のようにつながって情報を伝達していますが、その配線は一本の線のようにつながっているわけではありません。
  それぞれの線(神経細胞)の結合部(シナプス)には、かすかなすき間が開いていて、そのすき間を神経伝達細胞が移動して、情報を伝達しています。
  そして、パーキンソン病ではドーパミン、アルツハイマーではアセチルコリンという神経伝達細胞が不足するために、それぞれの病気が引き起こされます。
  この二つの病気の兄弟であるレビーは、ドーパミンとアセチルコリンが共に低下する病気なのです。
  パーキンソン病では、筋肉のこわばり、手の震え、小刻み歩行といった症状が現れます。これらの症状は、脳幹にレビー小体という特殊な物質が出現して、ドーパミンが不足するためにおこります。
  一方レビーは、レビー小体が脳幹だけでなく、人間の知能と関係した大脳皮質(大脳の表面に広がる神経細胞の僧)にも出現してくるために、パーキンソン症状を伴う認知症として進行することになります。

 (2)レビーの症状
  幻視(実際に存在しないものが見える幻覚の一種)がある
  ゆっくりとしたすり足歩行をする
  元気がなく無表情
  すぐに寝てしまう(診察中に寝る)
  夜中に寝言で叫ぶ
  知能テスト(改定長谷川式スケール)が高得点で認知症と思えない場合もある)

 (3)レビーの特徴
  体が傾いて、幻視が特徴的な認知症
  75歳前後のやせた男性に多い


4.脳血管性認知症とは

 (1)脳血管性認知症の原因
  脳血管障害(脳梗塞、脳出血、クモ膜下出血)によって急に倒れたり、意識がなくなったり、マヒしたりした場合を脳卒中といいます。
  脳卒中のタイプは、梗塞(脳の血管がつまる)と出血(脳の血管が破れる)の二つの種類がありますが、どちらも認知症の原因になります。
  こうした脳血管性認知症は、脳卒中の発作の半年以内に徐々に現れてきます。

 (2)脳血管性認知症の症状
  怒りっぽくなる
  尿失禁がひどい
  足を引きずっている
  ろれつの回りがが悪い
  夜に騒ぐ(夜間せん妄)

 (3)脳血管性認知症の特徴
  感情失禁(泣く、怒るなど)が決め手となる
  高血圧をもつ60~70代の男性に多い
  病識(自分がおかしいことの認識)は残っている


5.ピック病とは

 (1)ピック病の原因
  ピック病は、大脳のうちの前頭葉が強く委縮する認知症です。
  アルツハイマーは頭頂葉と側頭葉の委縮が目立つので、症状が異なります。

 (2)ピック病の症状
  楽しい場面でないのに笑う
  身勝手で突拍子のない危険な行動をとる
  無愛想で挨拶をしない
  スイッチが入ったように急に怒る
  食べられないものを口にする
  食べ物をかきこんで食べる
  甘いものを猛烈に好む

 (3)ピック病の特徴
  万引きなど、社会的に問題のある行動をとる
  「風変わりな人」と思われる


6.認知症の予防対策

 (1)脳の活性化
  認知症の予防には様々な方法がありますが、日頃から色々なことに興味や好奇心を持って生活することも大切なことです。
  興味や好奇心を持つということは、見たり聞いたりしたことを覚えるために必要な「注意と集中」が持続しますので、それが脳の活性化につながります。趣味を持ったりボランティアに参加したりすることで、大いに脳を活性化させましょう。

  また、脳が衰えないようにするには、脳を積極的に使うことが一番です。テレビを見る時なども、ただ眺めているだけではなく、番組の感想や批評などをまとめてみる、などということを行うと脳の神経細胞を活性化することができます。自分の考えをまとめたり、その考えを表現するということが習慣になるとより効果的です。
  囲碁や将棋などの趣味も頭を使いますよね。また日記や手紙を書いたりしてみるなど、楽しみながら脳を使うように心がけましょう。

 (2)転倒防止
  アルツハイマーの一番の危険因子は、転倒による頭の打撲、つまり頭部外傷です。普段から運動を心がけ、転倒しても頭を打たないように、身をかわす運動神経を養っておくことも大切です。また、室内での転倒を防止するために、段差をなくしたり、階段にすべり止めをつけたり、夜間には、適切な照明をつけて真っ暗にならないように気をつけましょう。また、必要に応じて、手すりなどをつけるのも転倒防止につながります。

 (3)適度な運動や気分転換
  認知症の予防に良いとよく言われるのは毎日30分以上の運動です。
  血流がよくなるからだけでなく、神経細胞を育てるホルモンがでるので、認知症予防に効果的です。
  運動と言っても、各種スポーツに限らず、家の近くを散歩するとか、自宅のお掃除やぞうきんがけ等もお勧めです。
  足腰が丈夫であれば、無理のない山野のハイキングなどは最高ですね。
  旅行などの非日常的な体験も脳を刺激する効果があります。
  気楽に、気長に生きている人の神経の突起は、そうでない人よりも長くて豊富という実験結果もあります。


   (以上、観一19回・長谷川澄治さん執筆、参考文献は下記)


<参考資料>
「認知症は治せる」河野和彦著 マキノ出版


<参考ツール>
長谷川式簡易知能評価スケール(改訂版)
心理学・医学・臨床心理士の先生方によってまたはそのご指導でお使い下さい。

1.「お歳はいくつですか?」
 2年までの誤差は正解  不正解0点 正解1点

2.「今日は何年の何月何日ですか? 何曜日ですか?」
  年・月・日・曜日 各1点ずつ
  年 不正解0点 正解1点
  月 不正解0点 正解1点
  日 不正解0点 正解1点
  曜日 不正解0点 正解1点


3.「私たちが今いるところはどこですか?」 (正答がないときは5秒後にヒントを与える)
  自発的に答えられた 2点
  5秒おいて「家ですか?病院ですか?施設ですか?」 の中から正しい選択ができた 1点
  不正解 0点


4.「これから言う3つの言葉を言ってみてください。あとの設問でまた聞きますのでよく覚えておいてください。」

 以下の系列のいずれか1つで、採用した系列に○印をしておく。
 系列1   a)桜   b)猫   c)電車
 系列2   a)梅   b)犬   c)自動車

 言葉ごとに各1点ずつ
  3つ正解 3点
  2つ正解 2点
  1つ正解 1点
 正答できなかったとき、正しい答えを覚えさせる。  不正解0点
 (3回以上言っても覚えられない言葉は横線で消す)

5.「100から7を順番に引いてください。」(aに正解のときのみbも行う)
 a) 100―7は?
 b) それから7を引くと?

 a、b各1点ずつ  不正解0点 正解(93)1点
          不正解0点 正解(86)1点

6.「これから言う数字を逆から言ってください。」(aに正解のときのみbも行う)
 a) 6―8―2
 b) 3―5―2―9

 a、b各1点ずつ  不正解0点  正解(2-8-6)1点
          不正解0点  正解(9-2-5-3)1点

7.「先ほど覚えてもらった言葉(問4の3つの言葉)をもう一度言ってみてください。」

 正答がでなかった言葉にはヒントを与える
   自発的に答えられた 2点
  ヒント a) 植物 b) 動物 c) 乗り物 を与えたら正解できた 1点
  不正解0点

8.「これから5つの品物を見せます。それを隠しますので何があったか言って下さい。」
 1つずつ名前を言いながら並べ覚えさせる。次に隠す。
 時計、くし、はさみ、タバコ、ペンなど必ず相互に無関係なものを使う。
 1つ正答するごとに1点
  5つ正解 5点
  4つ正解 4点
  3つ正解 3点
  2つ正解 2点
  1つ正解 1点
  全問不正解 0点

9.「知っている野菜の名前をできるだけ多く言ってください。」
 答えた野菜の名前を記入する。
 途中で詰まり、約10秒待ってもでない場合にはそこで打ち切る。
 正答数ごとに下記点数
  正答数10個以上 5点
  正答数9個 4点
  正答数8個 3点
  正答数7個 2点
  正答数6個 1点
  正答数0~5個 0点

合計得点 点

質問内容の解説
1:年齢 2:日時の見当識 3:場所の見当識 4:言葉の即時記銘 5:計算 6:数字の逆唱 7:言葉の遅延再生 8:物品記銘 9:言語の流暢性

< 注1 >
< 注2 > 30点満点で、20点以下のとき、 認知症の可能性が高いと判断される。
認知症の重症度別の平均点
非認知症:24.3点/軽度認知症:19.1点/ 中等度認知症:15.4点/ やや高度認知症:10.7点/ 高度認知症:4.0点