<遠距離介護支援交流会>
4年半の老親介護体験談
                2014年6月27日



 1.老親の気持ちを斟酌

(1) 住み慣れた場所の変化を嫌う
  <新しい環境に対する適応能力の低下>
  自分にとって好ましい「青山」は住み慣れた場所であり、「隣の芝生」は青くない。
  生活環境が変われば、気の置けない話相手がいなくなる。
  日々の家庭環境の中で、ルーティン化していた「仕事」がなくなる。
  気持が良く、満足度の高い精神が安定した生活ができなくなる。

 (具体例)
  実家では、教師仲間、親族縁者、地域の隣人が話し相手として存在していたが、
  新しい場所では、それらの人に代わる話し相手を見つけ出すのは難しい。

(2) 自身に向けられた感情に敏感である
  <記憶力や言語能力が低下する中、感情的能力は鋭敏となる>
  話す内容よりも、話し方が大切である。
  早口で交わされる会話にはついていけず、理解できない。
  甲高い声は叱られているように受け止められる。

 (具体例)
  子供や孫たちとの食事中の会話は、ほとんど聞き取れない、とのこと。
  お年寄りには、ゆっくりと優しく話すことが肝要。
  介護をする親族に対して、攻撃的な言動をとる要因は、自分が相手から攻撃されているように認知したことの反作用である。

(3) 認知症の予兆に対して不安を抱く
  <忘れっぽくなった自分に対して不安感が増幅してくる>
  記憶力の低下と認知症の予兆の区別を理解しておく
  記憶力の低下は誰しも起ることであると認識する。
  認知症の予兆がみられた場合は、進行を遅らせる投薬治療が必要である。
 
 (具体例)
  85歳の時に、実家の三豊市から息子夫婦の横浜に転居した時は認知症の症状はまだ見られなかった、と私たち夫婦は認識していたが、茅ヶ崎在住の妹によれば、母が妹夫婦宅で宿泊したとき、鬱状態になったときの母の言動から、認知症の予兆が感じられたとのことである。
  私たち夫婦と生活しているときは、一種の緊張状態で意識的に元気な表情を見せる努力をしていた、のかも知れない。

(4) 日常の生活パターンが変更となる介護施設への反発
  <住み慣れた自宅での生活を何故させてもらえないのか>
  要介護度のレベルによって、介護施設の利用日数が決まっている。
  要介護度が低い場合には、自宅での生活を中心にして、適宜介護施設を利用。
  要介護度が高くなった場合は、特養とか老健施設への入所も検討対象となる。
  如何なる場合でも、施設の利用を本人に理解・納得してもらうことが肝要。

 (具体例)
  要介護度1の時は、デーサービスを週に2回利用し、ショートステイを毎月3日~5日利用していた。
  朝、施設に送って行こうとして車に乗車する際、「今日は行きたくない」とか「邪魔なら私を殺してくれ」などの、拒否発言が見られた。
  施設に到着すると、ヘルパーさんが元気に迎えてくれるので、愛想笑などで応えているが、「何時に迎えに来てくれる?」「必ず迎えに来てくれよ」と必ず念を押されていた。
  人によっては、皆で歌を歌ったり、体操をしたり、散歩に出かけたり、してくれる施設は、自宅で何もせずにじっとしているより、好ましいと思っている方もいるが、母の場合は、施設で用意していたプログラムに余り興味がなかったようである。
  たまに、施設に、幼稚園児や小学生がやってきて、踊りや歌を披露してくれていたが、子供好きの母にとっては、このようなプログラムは大歓迎だったようである。
  

2.老親介護者の実態を理解

(1) 介護従事者のフルタイム勤務は困難である
  <定年になったら田舎に連れて帰ってあげるとの母の約束を履行>
  施設の利用回数は、要介護度によって上限が決められている。
  利用時間は、9時~16時なので、フルタイムでの仕事は難しい。
  夜間、介護するケースが多くなり、体調管理が必要となる。
  特養又は老健の施設に入所すれば、時間的余裕は生まれてくる。

 (具体例)
  1年半の横浜での同居生活に慣れ親しんでくれていたが、田舎への思いは強い。
  母は田舎へ連れていって、家内は仕事を続けて欲しい、との板挟み状態。
  田舎で母を介護する生活においては、通勤を必要とする仕事は無理である。
  選挙の際、友人から選挙事務所の仕事を依頼されたが断らざるを得なかった

(2) 遠距離介護のパターンとコストについて
  <三豊と横浜のダブル生活により、生活費は2倍になる>
  実家と現住所のダブル生活は、経済コストが増大する。
  要介護度が低い場合、実家の老親だけで、介護施設の利用が可能であれば、経済的には楽になる。
  要介護度が高い場合、特養施設に入所できれば、遠距離介護の負担は軽くなる。
  要介護度が高いにも関わらず、


 (具体例)
  三豊の実家で母の介護を私が行い、家内は横浜の自宅管理と仕事を継続した。
  介護生活を軸にして、月1回のペースで数日間上京するパターンを4年半継続したが、三豊と横浜のダブル生活による生活コストは倍ととなり、三豊~横浜間の往復交通費がそれに上乗せした。
  母が特養に入所してからも、記憶がそれほど低下しない、レピー小体型認知症だったので、毎日特養を訪問して、介護支援を行った。
  母の年金支給があったので、特養の支払いに充てることができたが、家計全体としては、毎月赤字の状態であった。

(3) 親族による介護支援体制を構築する
  <親族による介護協力体制が大切である>
  認知症の親を介護するということは、24時間見守りの生活となること。
  介護施設を利用すると同時に、兄弟姉妹で介護を交代すれば負担が軽くなる。
  住いが遠方の場合は、交通費の負担との配慮が必要になってくる。

 (具体例)
  家内や妹たちに、二か月に1回の割合で、母の介護支援に足を運んでもらった。
  妹たちが実家の三豊市に戻って、母の介護をしてもらっている間、予定をたてて上京することにした。
  家内や妹たちの交通費を賄っていたので、移動コストは2倍になってしまった。
   
(4) 介護施設利用の条件と利用方法
  <行政機関による介護認定に基づき、介護施設利用の内容が決定される>
  介護支援1、介護支援2では、デーサービス、ショートステイの利用枠は少ない。
  要介護度1から要介護度5に上がるにつれて、介護施設利用の枠は増加する。
  被介護者に対する介護計画と実行については、当該地域のケアマネジャーがその責を負い、介護サービスをマネジメントしていく。
 
 (具体例)
  母が要介護度1のときは、デイサービスが週に2日、ショートステイが月に1回利用できる状態であった。
  行政機関による介護認定は、調査日程を決めて担当者が自宅に来訪し、家族からのヒアリング、本人に対する問診、手足の運動機能のチェックなどを行い、後日郵送で、認定結果が報告される。
  介護認定の調査は、毎年1回実施されて、現況の要介護度に更新される。
  母は、レピー小体型認知症だったため、その一つの症状として、つんのめるようなすり足歩行がみられたため、何回も転倒して骨折を繰り返した。
  骨折のたびに、足腰の衰えが進行して歩行困難な状態となり、車椅子生活になってしまった。
  特養に入所する前段階では、排泄や食事の介助が全て必要な要介護度5のレベルになっていた。


 3.認知症についての理解と予防

(1) 認知症の早期発見
  <どのような言動が生じた場合に、心療内科を尋ねるか>
   (1) アルツハイマー型認知症の初期症状
   ・人や物の名前が出てこない。
   ・日にちや時間がわからなくなる。
   ・以前持っていた関心や興味を失くしてしまう。
   ・ちょっとしたことで怒りっぽくなる。
   ・同じことを何度も聞いたり、言ったりする。
   ・どこに物を置いたのか思い出せなくなる。
   ・以前はしていた日課をしなくなる。
   ・薬が管理できなくなる。
   ・いつもの場所で道に迷ってしまう。
   ・夜中に起き出して騒ぐことがある。
   ・水道の蛇口など、しめ忘れが多くなる。
   ・簡単な計算も間違えるようになる。
   ・身だしなみを気にしなくなる。
   ・お金や財布やを盗まれたと言って騒ぐようになる。
   ・以前よりもとても疑い深くなってきた。
   ・テレビドラマなど、内容が理解できなくなる。

   (2) アルツハイマーの段階と症状
   アルツハイマーは、アルツハイマーの前触れとも言うべき軽度認知障害から始まり、アルツハイマー第一期~第三期と、アルツハイマーの症状には、それぞれ段階があると言われています。

   ●軽度認知障害(アルツハイマーの前触れ)
   知的能力が低下する2~3年前から、人格に軽い変化が起きてきます。自己中心的になったり、頑固になったりします。また、不安を感じたり抑うつになったり、睡眠障害や幻視妄想などが起きてきます。この頃から軽度の物忘れをするようになりますが、車の運転や金銭の計算などはできるため、日常生活に支障があるわけではないので気がつかない場合が多いのです。

   ●アルツハイマー第一期
   この時期は健忘期とも言われています。
   物事を覚えることができなくなってくる健忘症状や、道に迷うというような空間的見当識障害、夜中に徘徊するという行動などが確認されています。
   また、この時期に大脳皮質全般の機能が衰え始めるので、単なる「物忘れ」ではなくなる時期でもあります。

   ●アルツハイマー第二期
   この時期は混乱期とも呼ばれています。
   初期の症状が一層深刻化していく時期でもあり、大脳皮質の萎縮が進行していき、会話などが困難になってきます。また、高度の知的障害が起きてきます。言葉を失ってしまったり、方法は知っているのにできない。例えば、服の着方はわかるのに着ることができないとか、実際に目に見えているのにもかかわらず、見えていると認識できない、という症状が現れてきます。
   このように、体がスムーズに動かせないという症状から、パーキンソン病と間違われてしまうことがあります。

   ●アルツハイマー第三期
   この時期は臥床(がしょう)期とも言われています。
   ここまでくると高度な痴呆の末期となります。ほとんど寝たきり状態になります。そして、失禁したり、拒食や過食、反復運動、けいれんなどが起こることもしばしば、そして言葉も失われてしまいます。この状態では、身の回りの世話など、生活全般において介護が必要です。

   高齢化が進む中、介護が必要な人たちが今後ますます増えていきます。アルツハイマーで一番大切なことは、初期症状を見逃さないようにすることです。初期症状で適切な治療を受けることが何よりも重要なことなのです。


(2) 認知症の診断
  (1) 認知症の簡易検査と診断
  成人に達してから、知能の低下が生じる状態を認知症といいます。

  認知症の診断の第1の根拠となる症状は、生活に支障をきたすほどの知的能力の低下があるかどうかです。時間、場所、人の見当がつかないことを「見当識障害」といいます。

  これらの見当識障害や、記憶力、記銘力を評価するのにしばしば用いられるのが、長谷川式簡易知能評価スケールです。これは医師でなくても実行可能な簡単なテストです。

  しかしこの評価スケールは、あくまで簡易検査です。行動の異常に関するテストは含まれていません。したがって明らかに認知症と思われるケースでありながら、正常と判断されてしまうこともあります。

  そのため、実際の診断にあたっては、家族から、ご本人の異常な行動、幻覚、妄想の有無などを詳しく聞き、診断をより正確に、確実なものにします。

  妄想には、脳血管性認知症とアルツハイマー型認知症があります。両者を区別する特徴としては、脳血管性認知症の場合は、アルツハイマー型と比較して、認知症症状があっても人格は比較的保たれている、ということがあります。

  診断には、さらにCTスキャンやMRI、脳波、脳の血流検査(SPECT-PET)などが、補助診断として使われ、これらからも、アルツハイマー型か脳血管性型かの判断がある程度つきます。

  また、認知症は、慢性硬膜下血腫、正常圧水頭症、脳腫瘍などからの二次的症状として生じることもありますが、CTスキャンは、これらとの鑑別にも有用です。

  (2) 物忘れ外来を受診する
  現在、超高齢化している日本では、85歳以上の3~4人に1人が認知症であると言われています。日本人の平均寿命は、男性が78.56歳、女性が85.52歳です。(2006年10月1日現在)また、65歳以上が占める割合が20%を超えています。

  アルツハイマーの初期症状である、物忘れがひどくなったり、知っているはずの道に迷うようになった時、本人や家族がそのことに早く気づき、診察や検査などを受け、病気についてきちんと認識することが大切になってきます。適切な処置や、手術などで病状が治ることもありますし、また、病気の進行を遅らせることができます。

  アルツハイマーの前ぶれとも言われる軽度認知障害の段階で気がつけば、アルツハイマー型認知症への進行をかなり防ぐことができます。そのためには、物忘れなどの初期症状に気づいたら、すぐに病院に行きましょう。

  しかし、実際に診察してもらうには何科にかかったらよいのかわからないという人も多いのではないかと思います。物忘れが気になるから相談したいという時に、気軽に受診することできるのが「物忘れ外来」です。最近では、この物忘れ外来を設置している病院が増えました。

  物忘れ外来では、まずその症状が病気によるものなのか、年齢によるものなのかを診断します。老年期の心の問題には、認知症やアルツハイマーなど脳の老化に伴う病気と、それ以外のうつ病やノイローゼなど、脳の老化とは直接関係のない様々な症状があります。

  物忘れ外来では、物忘れが気になる本人だけでなく、その家族などの相談にも応じています。また、専門的な観点からも診察やCTなどの検査、相談を行っています。

  そして、最終的には一人ひとりの診断結果に応じた治療や処置をしていきます。症状に応じた薬物治療、また症状によっては施設への入居、介護保険のアドバイスなどもしてくれます。とにかく、一人で悩まずに物忘れ外来を受診して、専門家に相談してみることをお勧めします。

(3) アルツハイマーの原因
  (1) アルツハイマーの原因 
  アルツハイマーが発症する原因には、いくつかの説があります。
  一番有力な説は、脳内の組織にベータアミロイドというタンパク質が蓄積して、脳の神経細胞が死滅します。そして大脳皮質が極端に萎縮することで、痴呆を発症するという説です。

  正常な人の場合でも、ベータアミロイドは合成されて、分泌されています。しかし、酵素によって分解されるため蓄積されることはありません。それが、歳をとると共に分解機能が追いつかなくなり、蓄積されることでアルツハイマーの発症につながると考えられています。

  また、老人斑という大脳皮質などにできる染みのような繊維状の物質が増加して、アルツハイマーの原因となるという説があります。しかし、短期の記憶に関わる海馬ではあまり見られませんし、アルツハイマーでない人にも老人斑は多く見つかっていますので、現在この説は疑問視されています。

  細胞内に、古くなった繊維状のタンパク質がたまり、それが固まった糸くずのようになる神経原繊維の変化が原因だという説もあります。アルツハイマーになった人の脳内神経細胞では、神経原繊維の変化は多く見られ、増加すると神経細胞は減少します。
  しかし、老人斑と同様に、アルツハイマーでない人にも神経原繊維の変化は見つかっています。

  家族性アルツハイマーのような遺伝性のアルツハイマーでは、ベータアミロイドの元となる物質である、APP遺伝子(アミロイド前駆体タンパク質遺伝子)、プレセニリン1、プレセニリン2という遺伝子が、その原因の遺伝子であることが判っています。

  APP遺伝子、プレセニリン1、プレセニリン2が変異することでベータアミロイドを増加させます。そして、ベータアミロイドが神経細胞の中に蓄積して、アルツハイマーが発病すると考えられています。

  また、アルミニウムや神経伝達物質の異常、活性酵素など、さまざまな原因因子が考えられていますが、原因が特定されているわけではありませんから、いつアルツハイマーになってもおかしくありません。

  何度も言いますが、初期症状を見逃さないようにすること、そして初期症状が起こった段階での治療こそが、症状の進行を防ぐ最大の方法なのです。


(4) アルツハイマーの予防・脳の活性化
  (1) アルツハイマーの予防「脳の活性化」
  アルツハイマーの予防には様々な方法がありますが、日頃から色々なことに興味や好奇心を持って生活することも大切なことです。

  興味や好奇心を持つということは、見たり聞いたりしたことを覚えるために必要な「注意と集中」が持続しますので、それが脳の活性化につながります。趣味を持ったりボランティアに参加したりすることで、大いに脳を活性化させましょう。

  また、脳が衰えないようにするには、脳を積極的に使うことが一番です。テレビを見る時なども、ただ眺めているだけではなく、番組の感想や批評などをまとめてみる、などということを行うと脳の神経細胞を活性化することができます。自分の考えをまとめたり、その考えを表現するということが習慣になるとより効果的です。

  囲碁や将棋などの趣味も頭を使いますよね。また日記や手紙を書いたりしてみるなど、楽しみながら脳を使うように心がけましょう。

  アルツハイマーの一番の危険因子は、転倒による頭の打撲、つまり頭部外傷です。普段から運動を心がけ、転倒しても頭を打たないように、身をかわす運動神経を養っておくことも大切です。また、室内での転倒を防止するために、段差をなくしたり、階段にすべり止めをつけたりする、夜間には、適切な照明をつけて真っ暗にならないように気をつけましょう。また、必要に応じて、手すりなどをつけるのも転倒防止につながります。

   
(以上、観一19回・長谷川澄治さん執筆)